高いところで約3mあった既存擁壁の強度に不安があったため、既存擁壁にかかる土圧負荷を軽減するために、敷地を段々状に掘り、敷地内に新しく低い擁壁を2段つくることにしました。すると擁壁によって分断されていた道と敷地の距離が近付き、緩やかに繋 がりました。建物は新設擁壁の上に建てることにしました。 新設擁壁の上にL型壁を立て、その上に床を載せる。さらにその上のバランスをとる位置にL型壁を立て、床を載せるということを繰り返しました。
建物を高く積み上げることになったのは、少し高い場所からは8km先の東大寺や若草山が一望できる場所だったためでもあります。一般的に建物の上階は地上レベルと切り離されてしまい、街との繋がりは希薄になりますが、ここではこの街全体を構成する象徴としての壁を上階にまでバランスを保ちながら積み上げることで、地上レベルや周辺環境との関係性を最上階にまで繋げていこうとしました。前面道路から見ると壁と壁で挟まれた内部空間を通り越して向こう側の外部へと視線が抜ける。それは、この住宅地を歩いていると出会う体験と同じようなものです。
敷地外周に広い庭を取り、各階に大きなテラスを設けることで、さまざまな環境を受け入れる余白をつくり出しました。建物外周部の仮設的な素材は、日々の環境の移ろいの変化に応じて素材感が移り変わる可変性をもちます。この住宅地にすでに存在していたマテリアルや風景の抜けなどの体験を設計の手がかりとしながら、予測することができないこの先に開かれた住宅を目指しました。