あやめ池の家

House in Ayameike

擁壁のある風景を繋ぐ

高いところで約3mあった既存擁壁の強度に不安があったため、既存擁壁にかかる土圧負荷を軽減するために、敷地を段々状に掘り、敷地内に新しく低い擁壁を2段つくることにしました。すると擁壁によって分断されていた道と敷地の距離が近付き、緩やかに繋 がりました。建物は新設擁壁の上に建てることにしました。 新設擁壁の上にL型壁を立て、その上に床を載せる。さらにその上のバランスをとる位置にL型壁を立て、床を載せるということを繰り返しました。
建物を高く積み上げることになったのは、少し高い場所からは8km先の東大寺や若草山が一望できる場所だったためでもあります。一般的に建物の上階は地上レベルと切り離されてしまい、街との繋がりは希薄になりますが、ここではこの街全体を構成する象徴としての壁を上階にまでバランスを保ちながら積み上げることで、地上レベルや周辺環境との関係性を最上階にまで繋げていこうとしました。前面道路から見ると壁と壁で挟まれた内部空間を通り越して向こう側の外部へと視線が抜ける。それは、この住宅地を歩いていると出会う体験と同じようなものです。
敷地外周に広い庭を取り、各階に大きなテラスを設けることで、さまざまな環境を受け入れる余白をつくり出しました。建物外周部の仮設的な素材は、日々の環境の移ろいの変化に応じて素材感が移り変わる可変性をもちます。この住宅地にすでに存在していたマテリアルや風景の抜けなどの体験を設計の手がかりとしながら、予測することができないこの先に開かれた住宅を目指しました。

あやめ池の家

外部カーテンが風でなびき、閉塞的な住宅地に動きを生み出しています。

あやめ池の家

既存の擁壁を残しながら、一部をカットし新しいアプローチを作り出しました。下部の壁はビニールテント生地。
上部の壁は厚さ40mmの中空ポリカーボネート板。どちらも光を十分に透過し、明るい室内を作り出します。

あやめ池の家

半階上がる階段と、半階下がる階段により、2つのアプローチをつくっています。
角に柱がないため、外に投げ出されたようなテラスとリビングになっています。

あやめ池の家

家の中を通り越して向こう側の家や空や庭まで視線が抜けます。
室内は風通しがよく、ほとんど外のように感じられます。

あやめ池の家

外の擁壁が室内に繋がっているのがわかります。擁壁の中に住んでいるよな感覚になります。
壁に対して45度振れた階段が室内のアクセントになります。

あやめ池の家

角に柱がないため、建具を開け放つとほとんど外のように感じられます。

あやめ池の家

床と庭がほとんど段差がなく一続きになっています。

あやめ池の家

土間コンクリートの床は夏は冷たく、冬は太陽光の蓄熱と、床暖房により暖かく過ごせます。

あやめ池の家

ランダムに壁が積み上がっているのがわかります。

あやめ池の家

外部階段から直接アプローチできるテラス。第二の玄関の役割ももっています。

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屋外カーテンを開けるとダイレクトに街と繋がります。

あやめ池の家

屋外カーテンを閉めると、柔らかいく光を透過し、適度にプライバシーを守ります。

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蹴込み板のないスチール製の階段により、階段越しに外に視線が抜けます。

あやめ池の家

壁と壁に挟まれた奥行きのある空間から、遠くに視線が抜けます。

あやめ池の家

L型の壁の開口部を通して、遠くの山の連なりが感じられます。
奥は、露天風呂に入っているような開放的なお風呂です。

あやめ池の家

若草山や東大寺まで眺められ景色を一望できるテラスです。

あやめ池の家

厚さ40mmの中空ポリカーボネートの外壁は、プライバシーを守りながら十分な光を取り入れます。

あやめ池の家

湿気が籠らない、カラリとした浴室。浴室と洗面所はシャワーカーテンで間仕切ることができます。

あやめ池の家

街を明るく照らす行灯のような外観。
プライバシーを確保するためにカーテンを閉めることも可能です。

あやめ池の家

掲載
  • 居住空間計画学 (学芸出版社)
  • Pen 2016年11/1号
  • Lives vol.82 08・09月号
  • 新建築住宅特集2015年5月号
受賞
  • 第32回吉岡賞 最終審査対象作品 審査委員:西沢立衛 中山英之 
  • 第2回日本建築設計学会賞 現地審査対象作品 審査委員:五十嵐太郎
  • 第2回日本建築設計学会賞 会員投票対象作品 審査委員:竹山聖 古谷誠章 五十嵐太郎 倉方俊輔